友の旅立ち

おきなべ

2014年05月22日 06:05

篠原君 天国で元気にやってるか。

家出して、北海道の俺のアパートに転がりこんできた篠。
あれは20の頃だったよな。
20歳ならもう家出なんて呼べない年か。
住むとこなくて、金もなく、おまけに初対面。
友人を通して、今日だけでも泊めてやってくれと頼まれた俺は、仕方ないので泊めて夜通し話した。
けっきょく1ヶ月の共同生活をして、アパート見つけた。

本を書くって?
なにぃ?哲学の本?
なにバカなこと言ってんだと何度もやめとけやめとけと言ってばかりだった。
青臭い議論、よくしてたよなあ。
それでも、10年かけて、本を完成した。
売れなかったよな。まだ俺のとこに20冊あるぜ。
ごめんな。難しすぎてまだ読み終わってないんだ。
新思想体系っていう本だった。

失恋した時は、2日も3日もつきあって、励ましてくれた。
恋した時は、対策を数時間まじめに会議した。
でもおまえの結論はいつも、ぶつかれだ。ぶつかって撃ち死にしろだった。

篠を思う時はいつも、フーテンの寅を思い出す。
何度失恋した?
綺麗な女性見るとすぐに恋した篠。
100回はオレ知ってるかもしれないぜ。
100回は大げさかな。
怒るな怒るな 50回くらいじゃ。
でも、100回恋しても、全力をかける恋だったよな。
もっと力抜けーやと言ったけど、耳貸さない篠だった。

何歳の頃だっけ。北海道から俺の結婚式に上京してサックス吹いてそのまま博多に流れていった。
中洲出会い橋でサックス吹いて、路上のミュージシャンになってしまった。
いつか世界的に有名になると、最期まで信じてたこと知ってるぜ。
下手なサックスだったけど、おまえの心意気を知ってる俺には味のある音だった。
2時間演奏すれば、カンパ箱に1日2万円も3万円も入ってたことあった。
でも、不況になって、最近は厳しかったよな。

一緒にキャンプ何度しただろう。
佐渡、伊豆、四国、山陰。
最期にしたのは、鳥取の海 もう3年前だった。
夜中に水中用の懐中電灯持って、海に潜って伊勢海老とるって言うんだもんなあ。
のんびり焚き火したいのに、おまえと行くといつもキャンプは体育会系になる。
それでも、楽しかった。最高だったぜ。

沖縄にも一緒に行ったよな。
オメーは泳いでばかり。海しか頭になかったもんな。
沖縄でキャンプしようぜって約束したじゃないか。
沖縄で気持ちのいい遭わせたい人がたくさんできたのに。

辺野古のことで、キャンプしてる時ずっと話を聞いてくれた。
言い合いしたよな。
まだ、おまえの結論は聞いてないぜ。
なべがそう言うのなら、もう一度勉強してみるって言ったじゃないか。

そうだ。こんなこともあったぞ。
俺が開業した日。博多からお祝いにやってきた篠。
何やってるのかと思ったら、近くの公園でサックス吹いて集まった子供に、この医院へ行けと強要してた。
焦ったなあ。あれで、何家族が来院やめたことだろう。
そう言っても解せない篠。
不気味でひいてしまうだろうと言うと、いや俺のサックスは人を惹きつけると反論する。
そいうう奴だった。

篠 まだー早すぎた死。
オレ、気持ちの整理ができない。
おまえの思い出書いてると止まらない。
でも、ここに篠のことどうしても書いておきたいんだ。
もうそろそろやめにするな。
まっすぐ生きて、夢に向かって猪突猛進。
俺の人生 七転び八起きでなく七転八倒といつも言ってた。

そうだ。こんなことも言ってたな。
年を取っても辞めない暴走族は認めるけれど、20歳になって辞める暴走族の兄ちゃんはひよこだって。
やるなら一生かけてしろという過激なことばかり言ってた。
おまえの路上サックス人生そのものだったな。
伝説の路上アーティストって言われてた篠。
ほんとに伝説になってしまった。

おまえは愛された。
夢を持たせてくれた。
おまえは単純で裏のない奴だった。
おまえの人生は見事だった。
おまえは、いつまでも泥臭い青春の中に生きていた。
そして、おまえの人生はおまえらしく終わった。

ありがとう。一緒に生きてこられてよかった。
おまえのぶんまで、オレがんばって楽しい人生にしなきゃ。
こんな事しか書けないや。

でもバカヤロウ 篠
もう話せないじゃないか。

おまえの演奏。
聴いてもらえよ。