琉球新報の記事から~復帰40年の新たな屈辱~

おきなべ

2012年11月27日 08:46



琉球新報のネットでは見られなく、とてもいい記事だったので全文を紹介します。
沖縄大学教授 桜井国俊氏の時評です。
沖縄の基地や環境、大嶺海岸、泡瀬干潟、尖閣を含め、本土ではなかなか伝わらない内容です。

復帰40年の新たな屈辱

 「復帰」から40年の節目の年2012年も残すところひと月となった。この年もまた沖縄は、数々の屈辱を受けることとなった。
 沖縄はオスプレイの普天間基地配備にこぞって反対意思を表明してきた。にもかかわらず本土政府、本土マスコミ、そして多くの本土国民は、数の暴力で沖縄の民意を無視し続けてきた。その背景には「日米安保は不可欠」「沖縄には地理的優位性がある」との盲信に基づく思考停止がある。
 10月1日、私は普天間基地の野嵩ゲート前に座り込み抗議の声をあげる人々の中にいたが、オスプレイはその頭上を越えて飛来した。以来オスプレイは、日米合同委員会で合意したはずの運用ルールなどは全く無視し、沖縄の空をわが物顔で飛び回っている。
 また沖縄は、人々の人権が守られるよう日米地位協定の改定を求めてきた。しかし政府は、運用の改善で対処するとして半世紀以上も放置し、挙げ句に起きたのが10月16日の米兵による婦女集団暴行事件である。オスプレイ配備反対で全島が燃え上がる中での暴挙だ。これは一部の不心得の米兵による不祥事ではなく、軍隊というものの本質である。国家安全保障(日米安保)を錦の御旗に、沖縄の人々の日々の安全・安心(人間の安全保障)を犠牲にすることは倒錯であり、目的と手段が逆転している。
 本土政府が沖縄に犠牲を強いることは民主主義ではなく、数の暴力である。事態の鎮静化に向け在日全米軍に向け夜間外出禁止令が発令される中で11月2日未明に発生した米兵の住居侵入中学生殴打事件は、米軍の「綱紀粛正」なるものが全く信用できないことを明らかにした。もはや地位協定の改定を求める段階ではなく、米軍基地の撤廃をこそ求めるべきである。
深刻化する構造的差別
 2012年の沖縄の顕著な特徴は、抗議の声を無視し続ける本土について、「これは沖縄に対する構造的な差別である」との認識を多くの人々が共有するようになったことだ。「構造的沖縄差別」という概念は新崎盛暉氏が提起したものだが、それがかくも頻繁に語られるようになったことは、沖縄の置かれた矛盾の深刻さがそこまで広く、かつ深くなり、人々の怒りのマグマが爆発寸前であることを意味する。
 片や日本政府の側も、恥も外聞もなく露骨なアメとムチの政策を展開するようになった。その先兵が、選挙の洗礼を恐れなくてすむ「民間」大臣の森本敏防衛相である。オスプレイ普天間配備に反対する県民世論を逆にテコにして辺野古移設を図ろうとしており、今や堂々と基地と振興策のリンク論を展開している。その際にアメとして提供されているのが那覇空港第2滑走路だ。
 日本政府は明らかに沖縄を分断できると考えている。彼らの狡猾(こうかつ)な切り崩しに、過去において沖縄社会が一致して「NO!」という意思表示をすることができなかったという苦い思いもある。総選挙を経て生まれる次の政権が沖縄により理解がある可能性はゼロである。今後も続く分断圧力にどのように抗していくかは、沖縄社会にとって引き続き大きな課題だ。
大嶺海岸は貴重な環境
 現在、那覇空港滑走路増設事業に係る環境アセスメントの手続きが進められているが、そもそも第2滑走路はなぜ必要なのだろう。仲井真県政は「沖縄21世紀ビジョン基本計画」で観光客数1000万人達成を目指すとしており、その際に制約要因となるのが滑走路や国際線ターミナル等の空港設備だという認識だ。
 那覇空港は現在、自衛隊と民間航空会社が共同利用するいわゆる「軍民共用空港」として運用されており、民間機専用であれば起きなかったはずの自衛隊機による事故寸前のトラブルが繰り返し発生している。民間機専用とすれば将来の旅客増にも現有滑走路で対応が可能なことは、アセス準備書の将来需要予測からも明らかだ。そうすれば沖合を埋める必要はなくなり、今や沖縄に残された数少ない貴重な自然海岸である大嶺海岸を守ることができる。それは大きな観光の魅力となり、観光立県を目指す沖縄にとって極めて重要なはずだ。筆者は2年前の大潮の日に大嶺海岸を訪れる機会があったが、素晴らしいサンゴの海が今でも目に浮かぶ。
 旅行情報のフォートラベルが今夏発表した「夏休み、家族で行きたい国内ビーチベスト10」によれば、1位のコンドイビーチ(竹富島)から9位の阿波連ビーチ(渡嘉敷島)まで、いずれも沖縄の自然海岸である。その片方で沖縄島では人工ビーチ造成ラッシュで、既に40カ所近くの人工ビーチがあり、計画中のものがさらに10カ所もある。ラムサール条約登録候補地の泡瀬(沖縄市)では、埋め立て計画は経済的合理性がないとして公金支出の差し止めを命じる判決が地裁、高裁で出ているにもかかわらず埋め立てが進められ、その計画の中にも人工ビーチの建設が含まれている。価値の高いものをわざわざ破壊している沖縄の私たち自身も倒錯していると思わずにはいられない。
日中友好の再構築へ
 さて今年は日中友好40周年の節目の年でもあった。しかし9月11日の尖閣列島国有化を契機に両国関係は急速に悪化した。がぜん東シナ海はきな臭くなり、那覇空港での自衛隊機のスクランブル発進が増加している。民間機専用とすれば大嶺海岸を埋めなくてすむと主張するのがはばかられる雰囲気が形成されつつある。沖縄にとって極めて不都合なことだ。東京の政治家たちが排外主義を無責任に煽(あお)り立て、そのとばっちりを沖縄が被るという構造を座視しているわけにはいかない。
 新崎氏は、中国・上海で尖閣問題の平和的な解決に向け沖縄の視点から意見を述べている。仲井真弘多知事も米国を訪れ、沖縄の声を直接伝えている。働きかけるべき対象の中国や米国の次期リーダーも決まった。より健全な日中関係、日米関係の構築に向け、沖縄はさらに積極的に自らの意見を伝えていく必要があろう。特に中国の新総書記に選出された習近平氏は、福建省の省長経験者であり沖縄との関係が深い。日本政府とは異なる沖縄の姿勢を、直接、新しいリーダーに伝えることが求められよう。

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